所得税の源泉徴収制度は、原理的には、申告納税制度を前提とした場合、所得税・法人税の前払い的性質を持ち、確定申告の手続きを経て精算する仕組みです。
ただし、完全子法人株式等・関連法人株式等に係る配当については、益金不算入の制度になっているため、所得を構成しないにもかかわらず源泉徴収をすることになってしまっています。そのため、課税所得に係る税額の前払いの性質を持っていません。
上記の指摘は、会計検査院が令和2年11月10日に内閣に送付した「令和元年度決算検査報告」においてしたものです。
会計検査院は、3年間に亘り、1667法人を追跡調査したところ、1兆1345億1974万円の源泉税控除があり、内9934億1336万円(88%)が法人課税所得を構成しない配当等に係る源泉所得税であり、納付法人税額を超える源泉所得税となって還付された額は1262法人の8898億6092万円(90%)だったと、記しています。
さらに、888法人に還付加算金が生じ、その額は3億6563万円でした。
会計検査院は、法人側の納付も、国税側の還付も無駄な事務作業で、還付加算金は税金の無駄使い、とのスタンスです。
会計検査院の指摘した問題は、令和4年度の税制改正で解決され、完全子法人株式等と3分の1超所有の株式等とに係る配当について所得税課税対象外となり、その支払いをする法人の源泉徴収事務も不要とされました。施行は、令和5年10月1日です。
ただし、与党税制改正大綱の「基本的考え方」の中で、「配当に係る源泉徴収の見直しにより、令和5年度の税収が減少すると見込まれること等を踏まえ、その影響を緩和するための必要な対応等について、令和5年度税制改正において検討する」としていました。
令和5年度の税制改正大綱の諸項目の中に、予告されていた「税収減への必要な対応」に該当するものは見当たりません。
M&A等での新たな子会社からの早期の配当では、源泉所得税額控除の月割計算に該当することがあったので、その留意点はなくなりました。