今後予定される育児介護休業法の改正の中で、仕事と介護の両立のさらなる実現に向けて、事業主の義務が強化されることが見込まれています。強化の背景には、介護離職が社会問題となっている一方で、法制度上の両立支援制度が十分に利用されていない実情があります。東京商工リサーチの調査によれば、介護離職者の54.5%が、「両立支援制度を利用していない」と回答しています。人手不足が深刻な問題である中小企業こそ、中心メンバーである従業員を介護離職で失うことは、大きな経営リスクになりかねません。改めてこの問題を考えてみましょう。
なぜ、介護離職者の半数以上が、両立支援制度を利用していないのでしょうか。令和3年度の厚生労働省の委託調査によれば、最も多い原因は「勤務先の問題」で、その中でも、「両立支援制度が整備されていなかった」の回答が約6割となっています。そもそも介護休業制度が整備されていないなどの根本的な問題であれば、早急に整備する必要がありますが、より深刻なのは、自社に制度が整備さているにもかかわらず、介護離職が起きてしまうことです。
これには、「従業員の制度に対する誤解」や「プライベートな問題でもあり企業が実態を把握するのが難しい」などの原因が考えられます。
育児介護休業法における、介護休業の日数は93日です。誤解が多いのですが、この期間は、従業員自身が介護をすることを目的に、設けられたものではありません。あくまでも必要な介護に関して、行政機関や民間サービス会社などに相談したり、介護に必要な申請をしたりするための期間として設けられたものです。
これらを踏まえて、企業としては従業員がまずは職場内で相談できるような環境を整備すること、また、その前段階として、プライベートな側面が大きい問題であっても、相談しやすいように日頃から従業員との円滑なコミュニケーションを図るなど、自社にできることを考えてみてください。もはや介護の問題は、従業員個人の問題だけではありません。企業の介護支援は、福利厚生を超えた重要な人事戦略となっています。