夫はITエンジニア、夫と同一生計の妻はWEBデザイナーです。それぞれ独立した個人事業者として事業を行い、確定申告しています。このような中で夫が妻の受注した顧客向けECサイトの構築業務をサポートした場合、妻が夫に支払う役務提供の報酬は、妻の事業所得の必要経費に算入されません。また、夫は収受した報酬も自身の事業所得の収入金額に算入されず、サポートに要した夫の経費は、妻の必要経費となります。この取扱いは、夫婦など同一生計親族間で所得を分散させる租税回避を防止するために設けられた制度です。
独立した親族間の役務提供を所得金額に反映させることの是非が争われたのが、いわゆる「弁護士夫婦事件」です。
裁判では、それぞれ独立して弁護士業を営む夫婦間において、妻弁護士が夫弁護士に提供した役務に対する報酬は、所得税法に規定するとおり、夫の事業所得の必要経費とならず、妻の事業所得の収入金額にならないと判示されました。
また、親族からの役務提供を所得金額に反映させない取扱いと、親族以外の他人からの役務提供を所得金額に反映させる取扱いとの不整合が憲法14条違反となるかについても、裁判所は、これらの区別は合理的であり、憲法違反ではないとしました。
一方、夫の事業に妻や子供などの親族が青色事業専従者等として従事する場合は、帳簿記帳と一定規模の就業、相当な対価などの要件をもとに、夫が親族に支払う給与は夫の事業の必要経費となり、支払を受けた親族の収入金額となります。これも親族間の役務提供ですが、透明性を担保に例外として所得金額への反映を認めています。
親族間の役務提供の経費不算入も、青色専従者給与制度も、戦後、世帯単位課税から個人単位課税に移行する中で、補完措置として設定されました。しかし、現代は副業をはじめ多様な働き方が求められ、夫婦共働きや夫婦間での協業も普通に行われます。独立した事業を適正な対価で営む親族間の取引を所得計算から除外することは、時代の流れに整合しなくなっている面もあります。青色事業専従者として雇用し、法人成りして給与を支払うことでも経費算入は可能ですが、違和感はぬぐえません。