令和5年5月、国税庁は信託型ストックオプションに給与課税する見解を発表しました。課税根拠はQ&Aに示され、実質的に信託型ストックオプションを付与するのは発行会社であること、付与される役職員に金銭の負担がないことなどから、その経済的利益を労務の対価であるとしました。
信託型ストックオプションでは、最初に発行会社のオーナー(または発行会社)が、信託会社に金銭を信託します。次に信託会社は発行会社からストックオプションを時価で購入します。その後、発行会社は信託会社を経由して役職員を指定し、ストックオプションを付与します。役職員はストックオプションによる権利行使をして株式を取得し、その株式を売却して利益を得ることができます。
発行会社は、ストックオプションを付与する役職員を貢献度に応じて決めることができ、また権利行使時に給与所得として課税されず、株式売却時の譲渡所得課税でメリットを受ける想定でしたが覆されました。
信託会社が最初に金銭の信託を受けた時、信託財産から利益を受ける受益者がいないため、受益者のいない信託(法人課税信託)として信託会社に法人税が課税されます。次に、信託会社は発行会社からストックオプションを適正な時価で取得しますので、ここでは課税されません。
続いて役職員にストックオプションが付与されて受益者になると、信託は法人課税信託ではなくなり、役職員は信託会社の簿価を引き継ぎますが、所得税の扱いは収入金額に算入せず、ここでも課税されません。
そして役職員が権利行使して株式を取得したときに経済的利益を認識します。権利行使時の株価から信託から引き継いだ簿価、権利行使時の払込価額の合計額を差し引いた額が労務の対価として給与課税され、発行会社には源泉所得税の徴収義務を課します。売却時には譲渡時の株価と権利行使時の株価との差額が譲渡所得として課税されます。
国税庁Q&Aでは、信託型ストックオプションで付与前のものが税制適格となる要件を例示しています。令和6年度税制改正では、信託型でないタイプの税制適格ストックオプション制度を拡充していますが、信託型については税制適格となる要件を法律に明記しないのでしょうか。