厚生労働省が公表した「年収の壁・支援強化パッケージ」は、パート労働者などの短時間労働者が、いわゆる「年収の壁」を意識して、就業調整を行うことへの対応策として取りまとめられましたが、今回の支援強化パッケージは、2年後に予定される年金改革までのつなぎという側面も強く感じられます。実際、年収の壁の金額変更や、年収の壁そのものをなくす、というような根本的な部分には、一切触れられておらず、法改正の必要がないもののみが挙げられています。
ここでは、パッケージに挙げられた対策のうち、属人的手当、特に配偶者手当の廃止を含んだ見直しについて検討します。
自社の給与体系において「配偶者手当」がある場合、その見直しをする際の方法には、①配偶者手当の廃止②配偶者手当の縮小③配偶者手当の収入要件の見直し、が考えられます。このうち、今回の支援強化パッケージの趣旨に沿った見直しは、基本的に①又は②になると思われます。ただし、①又は②の方法による見直しは、労働条件の不利益変更に該当する可能性が高く、労働者側からの同意を得ることも簡単ではないでしょう。そのため、①又は②の方法を選択する場合には、廃止又は減額した分の給与を基本給に上乗せすることや、別手当を支給するなどの激変緩和措置を設けるなどの対応が必要になるでしょう。また、③の方法では、要件を厳しくする方法と、逆に緩和する方法とが考えられます。
前者については、先ほどの①又は②と同様、労働条件の不利益変更に該当する可能性が高くなります。一方、後者の場合には、自社の配偶者手当に関してのみ要件が緩和されても、社会保険の被扶養者要件や、所得税法等における被扶養配偶者の要件が従前のままであれば、やはりこれらの「年収の壁」のために就業調整をすることは避けられないでしょう。
見てきたように、現存する配偶者手当を見直すことは容易ではありません。それでも近年、「男性は仕事、女性は家庭」のような旧来型の価値観が変化し、さらに同一労働同一賃金の考え方により、正規社員と非正規社員の均衡待遇が求められる点などから、配偶者手当を始めとした属人的手当を見直す企業が増えています。