新卒採用者の場合、労働契約の成立過程において、実際の入社の前に「採用内定」という段階を踏むことが一般的です。この「採用内定」には法律上どのような性質があるのでしょうか。これをわかりやすくするため「採用内定により労働契約が成立したと言えるか」という問題提起をして考えてみます。
労働契約の成立とは、労働契約法6条により、労働者が使用者によって使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します。(使用者は会社と置き換えてください)
「採用内定」の意味を理解してトラブルを回避しましょう |
それでは会社が新規採用者に採用内定を出した時点で、この労働契約は成立するのでしょうか。最高裁の裁判例では、採用内定制度といってもその実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難であるため、「具体的事案ごとに採用内定の法的性質を検討する必要がある。」とした上で、本事案(大日本印刷事件)では、採用内定について次のように判断しています。「当該事案では、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったとして(中略)労働者と使用者との間に、労働者の就労の始期を大学卒業後とし、それまでの間、採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立した」としました。要約すると「入社するまでの間に、採用取消事由が生じた場合や、大学を卒業できなかった場合には、労働契約を解除することができる旨の合意を含んだ労働契約が成立したことになる」ということです。
この裁判例では、条件付きではありますが、採用内定を労働契約の成立としています。そうすると採用内定取消しの法的性質も解雇となりますが、これも当然に認められるわけではなく、最高裁は「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることができないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが客観的に合理的であり、社会通念上も相当であると認められる場合に限られる」としています。