給与所得者が納付する所得税は、給与収入金額から給与所得控除額を控除した給与所得の金額をもとに算定しますが、控除額は給与収入金額の階層に応じて設定された概算額を使用しています。
概算控除のメリットは簡便性
給与所得の概算控除は実額控除と異なり、必要経費について税法上の取扱いを確認することや、請求書、領収書等を保管することは必要ありません。また、税務署にとっても必要経費の内容を確認する必要がなく、所得税の源泉徴収を使用者に義務付けることで業務の手間を省略しています。
課税の公平性は侵害されているか
給与所得者の場合、使用者が事務所賃料、光熱費、交通費、通信費など経費の大半を負担してくれるため、概算控除額が実額より高く設定され、課税の公平に問題があると税制改正の度に指摘されてきました。
一方、源泉徴収により所得金額が把握されやすいことなどにより、概算控除には他の所得との負担調整をはかる目的もあるとされています。
さらに、令和7年分より給与収入160万円までは課税されないことになり、課税最低限が103万円から引き上げられました。実額控除を適用すると給与収入の低い人に課税が生じてしまうことから、概算控除によって生活保障に配慮した措置を取ることができます。
税制への関心が薄れる弊害
給与所得者は税金が源泉徴収されてしまうため、自身の所得課税がどのような計算過程で算定されるのかについて関心が薄くなりがちです。特定支出控除の利用、副業収入、ふるさと納税などで確定申告する機会があるとはいえ、普段は実額による経費をもとに給与所得を計算する習慣がないため、所得税に対する感度が低くなります。租税制度に関心を薄れさせてしまうことは概算控除制度の欠点とも言えます。
給与所得者も実額控除で申告すべきか
e-Taxやマイナポータルの利用により所得税を申告する環境は整ってきているので、給与所得者も実額控除にすべきという意見があります。一方、実額控除にした場合、必要経費の判断を給与所得者に委ね、その適否を税務署に確認させることは、双方の負担を重くさせてしまう問題もあります。概算控除制度は維持したうえで、課税の公平を図りつつ、控除額を適宜、見直す方法が現実的と言えるかもしれません。