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中小企業白書を読み解く 値上げの先にある課題

コスト増に迫られる価格転嫁対応

 2024年度の中小企業を取り巻く環境は、依然として輸入物価やエネルギー費、人件費の上昇圧力が強く、企業は価格転嫁を避けて通れない状況にありました。とりわけ、原材料やエネルギー費の高騰は一段落しつつあるものの、依然として高水準で推移しており、売上単価とのギャップは埋まりきっていません。こうした環境下で採算性を確保するためには、価格転嫁を戦略的に進める必要があります。

業種・規模で異なる転嫁の実情

 データによると、中小企業全体としては価格転嫁が徐々に進展しているものの、製造業と非製造業、大企業と中小企業の間には依然として差があります。とくに中小企業の製造業では、大企業に比べ価格転嫁力指標が低く、コスト上昇分を価格に反映しきれていない実態があります。一方、非製造業では比較的順調に転嫁が進んでおり、小売・卸売など消費者価格に近い業種での影響が色濃く見られます。

転嫁力が生産性・利益を左右する

 白書内では、価格転嫁力が一人当たり付加価値額や実質労働生産性、さらには設備投資や賃金にも影響を与えることが明らかになっています。マークアップ率が高い企業ほど経常利益率や設備投資比率が高い傾向があり、価格転嫁の巧拙が企業の持続的成長に直結しているのです。転嫁率が5割に達するという調査結果もありますが、これはあくまで平均であり、すべての企業に当てはまるものではありません。

経営者が今すぐ取り組むべきこと

 中小企業の経営者としては、自社の原価構造を精緻に把握し、数値根拠に基づいた価格交渉を進めることが不可欠です。また「価格交渉促進月間」など、政府が実施する交渉機会を活用するのも有効です。さらに、業種特有の慣行に縛られず、付加価値の可視化や差別化を通じて価格の正当性を顧客に説明できる体制づくりも必要でしょう。

 価格転嫁は単なる「値上げ」ではなく、経営戦略の一環として取り組む姿勢が問われています。

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