スタートアップ企業の費用負担が課題
スタートアップ企業がM&A(合併・買収)によって自社の成長に必要な会社を取得する場合、取得価額が相手の純資産価額を上回る部分に会計上、のれんを計上します。
のれんは資産に計上し、20年以内の期間を定めて毎期、定額法等による規則的な償却が求められます。しかし、償却費の負担は販売費・一般管理費となってスタートアップ企業の営業利益を圧迫するので、のれんに償却を要しない外国の企業に比べ、収益力や財務体質が見劣りされてしまうことが問題とされていました。
一方で政府はスタートアップ企業を2027年までに10兆円規模にし、将来、ユニコーン(時価総額1,000億円超の未上場企業)を100社創出すること等を目標に掲げています。令和7年5月、政府の規制改革推進会議は、のれんの会計処理の見直しを検討するよう内閣総理大臣に答申しました。
国際会計基準は減損リスクに向き合う
国際会計基準IFRSは、取得したのれんに償却を求めません。スタートアップ企業は海外企業と同じ条件で競争できますが、その代わりに、のれんの価値を適正に評価し、毎事業年度、減損が生じていないかテストして、減価の発生が判明した場合は、のれんの簿価を切り下げる減損処理が求められます。経済環境が急激に悪化したときは、大きな減損損失を計上するリスクを負担することになります。
日本の会計基準は規則的償却
これに対し、日本の会計基準は伝統的に減価償却を重んじてきました。M&Aで取得した会社の投資効果は時間の経過とともに減少し、のれんの価値は徐々になくなり、代わってM&Aによって新たに生み出された価値(自己創設のれん)に置き換わるものと考えられています。
のれんを償却する場合は、自己創設のれんの計上を回避できること、のれんの効果が及ぶ期間や減価のパターンを合理的に測定する困難さがなくなること、規則的償却により、M&Aの投資コストを毎期の損益に期間配分して収益と対応させることなどが重視され、日本ではこれまでのれんについて国際会計基準の適用を見送ってきました。
独立性を保持したうえで基準を見直せるか
規制改革推進会議の答申を受けて、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計ルールの主体者として独立性を保持しつつ、国際会計基準との調整力が問われています。